1、はじめに
単純移動平均法により、{信号+雑音}を信号の周期だけ時間をずらして加算することで信号はN倍に、雑音は√N倍にしかならないことを利用し、微弱信号のS/Nを改善する装置です。
具体的には微弱なCW信号のS/N改善に使います。

とは言ってもすでに10年以上前からCW用ノイズスムーサとしてBBD方式、ソフトウエア方式が発表されており(参考文献)、今回は安価に入手できるH8/3664タイニーマイコンを使ってソフトウエア方式で作ってみました。
Ham Journal No93 の H8/300Hへの移植と機能拡張と言った方が正解かもしれません。

参考文献
 「CW Noise Smoootherの実験」 CQ ham radio 1989年3月
 「CW Noise Smoootherその後」 CQ ham radio 1990年1月
 「H8でつくるCW用ノイズスムーサ」 Ham Journal No93

2、機能
 信号中心周波数 350,400,450,500,550,600,650,700,750,800Hz 切り替え
 平均周期 2,4,6,8,10,12,14,16周期 切り替え
 サンプリング 1周期を1/32でサンプリング
 スルーSW付き
 モニター用中心周波数発信器内蔵
 入力レベル表示LED 
 バッファサイズ1Kbyte

3、回路
 CPU    (PDF 16K)
 アナログ  (PDF 16K)

CPUは秋月電子で販売されている「H8/3664フラットマイコン」1600円を使いましたがフラッシュ書き込み用Dsubコネクタと書き込みソフトが必要ですので、H8/3664モジュール開発セット(4500円)を購入する必要があります。
AKI−H8/3664タイニーマイコンキット(2800円)ならば少し大きいですがすべてそろっています。
もちろんH8/3664(SDIP、QFP)チップだけ購入してクロック(16MHz)、リセット回路を組めば製作可能です。

入力および出力のアナログフィルタはfc1.5Khzで設計しましたが、サンプリング周波数は高いのでそれをカットするには十分と思います。しかし後述の奇数倍の通りぬけには効果を期待できません。必要に応じ受信機にCWフィルタを入れたり、出力にさらにBPFを入れる必要があります。

周期、周波数切り替えSWは10ポジションBCDスイッチです。(1ならAがON、8ならDがON)
TONE LEVEL VRはソフトでTONE出力レベルを段階的に可変します。
CPUとアナログ回路は距離を離すべきです。AFアンプはCPUからのノイズを拾いやすいようです。

調整は入力レベルの調整だけですが、受信機のAF出力レベルと合わせて入念に調整してください。

4、プログラム
すべてアセンブラで書きました。
処理速度はH8自身そんなに速いものではありませんが、16周期の平均を30μsec程度で行っており800Hzの1/32サンプリング、16周期にも追いついています。

単純移動平均法による櫛型フィルタで起きる整数倍の信号の通りぬけについては前述HJ誌のアルゴリズムを参考にさせていただきました。すなわち、0.5周期前と減算1周期前と加算....のように減算、加算の繰り返しで偶数倍の信号の通り抜けはなくなります。しかし奇数倍の通り抜けはなくなりません。

ROM用プログラム (noisesm.abs) はこちら。 メールにて請求ください。
ROMライタは不要です。フラッシュ書き込みソフトと232ケーブルがあれば書き込みできます。
ソースの公開は考えていません。

5、使用方法
周期SW   1:スルー    2:2周期平均  3:4周期平均  4:6周期平均 
        5:8周期平均  6:10周期平均  7:12周期平均  8:14周期平均 
        9:16周期平均 10:スルー
周波数SW 1:350Hz  2:400Hz  3:450Hz  4:500Hz  5:550Hz
        6:600Hz  7:650Hz  8:700Hz  9:750Hz  10:800Hz
スルーSW ONでスルー
TONE SW ONでTONEで出力
LEVEL LED 入力がおよそ4.8Vp-pで点灯

6、効果
これが一番問題です。
聞こえない信号は聞こえません。419の信号が519になる場合があります。
519の信号にはノイズの少ない静かな環境を提供します。
受信機のCWフィルタを使うとさらに効果がある場合とSSBフィルタの方が良い場合があります。
周期数を上げていくとノイズレベルは下がっていきますが、中心周波数のビート音が耳障りになります。また受信機のチューニングはすごくクリチカルになります。

BBD方式でもそうでしたが、S/Nが0dB以下の信号には効果は期待できません。でもあるレベルの信号には格段のS/N改善の効果があります。
人口雑音の多いHFのほうがEME信号より効果があるのではないでしょうか。

7、終わりに
H8のアセンブラは初めてで、マニュアルを見はじめてから2週間でここまで動いたのは奇跡としか言いようがありません。しかし完璧なプログラムかまだ自信がないのも事実です。

ハードさえできてしまえばあとはパソコンに向かっていれば良いので、今後別のアルゴリズムで試してみたいと思います。

8、追加

SEP.22.2001
H8/3664フラットマイコンは手を加えています。
 R4は除去、JP1はカット、X2除去、C14除去しショート します。
R4とJP1の改造のためフラッシュ書き込みボードに差し替えて書き込みをする際注意してください。書き込みボードは電源を5Vにし電源端子の変更、P85にプルダウン抵抗を追加するなど回路に変更が必要です。

SEP.23.2001
減衰特性をシミュレーションしてみました。
6dBバンド幅は2周期250Hz、8周期50Hz、16周期20Hzです。
実際は測定器がないのでわかりません。
H8/3664を使ったノイズスムーサ 
試作1号機
試作機です。

最初はきれいに1枚基板で作ってケースに収めたのですが、CPU-AF間のノイズの影響を少なくするために基板を割り距離を離しました。
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JA9BOH 前川氏が本スムーサやBBDスムーサを「スペクトラン」で観察したデータです。
内容に間違いがあったらごめんなさい
IC275のAF出力
BBD式
BBD+IF500Hz
H8 IF2KHz
H8 IF500Hz